2012年6月27日水曜日

福岡県警「暴力団関係書籍リスト」配布訴訟の地裁判決文を読む

どんな訴訟なのか?

第2 事案の概要

1 本件は、原告が、福岡県警察(以下「県警」という。)が福岡県コンビニエンスストア等防犯協議会(以下「本件協議会」という。)等に対してした暴力団関係書籍等に関する違法な撤去要請により、原告の著作を原作とする漫画本がコンビニエンスストア(以下「コンビニ」という。)の店頭から撤去されるなどしたため、原告は著しい精神的苦痛を被ったなどと主張して、被告に対し、国家賠償法1条1項に基づき、慰謝料500万円及び弁護士費用50万円の合計550万円並びにこれに対する遅延損害金の支払を求めた事案である。

2 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに証拠及び弁論の全趣旨から容易に認定できる事実)
(1)当事者
 原告は、コミック「実録 激闘ヤクザ伝 四代目会津小鉄 高山登久太郎」(甲9、以下「本件コミック」という。)の原作者である(争いがない。)
(2)県警による要請等
ア 暴力団を美化・擁護するような書籍、雑誌等(以下「暴力団関係書籍等」という。)が青少年に対し暴力団に対する誤った憧れを抱かせるなどの悪影響を与えることを懸念していた県警本部刑事部組織犯罪対策局組織犯罪対策課(現・同本部暴力団対策部組織犯罪対策課。以下「組対課」という。)は、平成21年11月ころ、青少年が多数来店するコンビニに対し、県警の上記懸念を伝え、暴力団関係書籍等の取扱いに関し、何らかの措置を講じてもらうことができないかを検討することとした。そこで、組射線は、コンビニにおける防犯等の事務を担当している県警本部生活安全部生活安全総務課(以下「生安総務課」という。)に対して実態調査を依頼するとともに、生安総務課と連携してこの問題に取り組んでいくこととした。
 組対課からの上記依頼を受けた生安総務課は、同年12月初旬ころ、実態調査をしたところ、福岡県下のコンビニにおいて暴力団関係書籍等が販売されていることを確認した。そこで、生安総務課は、コンビニのフランチャイズ事業を営む9社、すなわち、株式会社ローソン(以下「ローソン」という。)、株式会社セブンイレブンジャパン(以下「セブンイレブン」という。)、株式会社ファミリーマート、J R九州リテール株式会社(以下「am/pm」という。)、株式会社ポプラ、エムエス九州株式会社、株式会社ココストアリテール、株式会社デイリーヤマザキ、株式会社サークルKサンクス(以下、この9社をまとめて「コンビニ各社」という。)等から構成される本件協議会に対し、コンビニにおける暴力団関係書籍等の取扱いに関する要請をすることとした。
 なお、本件協議会は、会員相互の緊密な連絡協調及び警察との連携の下、深夜(午後10時から午前6時まで)に営業するコンビニ及びスーパーマーケット等における防犯意識の高揚と自主防犯体制の確立を図るとともに、警察等が推進する地域安全活動に協力して、もって安全で安心できる町作りに貢献することを目的とし、コンビニやスーパーマーケット等の防犯設備その他防犯体制の整備に関する指導及び啓発、地域安全活動に対する協力及び支援活動並びに防犯に関する情報の連絡及び交換等の事業を行う団体であり、児轡は、本件協議会に対し、防犯面に関する助言や提案等を行っている。
(乙10、弁論の全趣旨)

イ 生安総務課の担当者は、平成21年12月4日、ローソンの九州支社を訪れ、本件協議会の会長に就いていたローソンの社員に対し、コンビニで販売されていた暴力団を取り扱った雑誌を示した上で、暴力団関係書籍等について、店頭から撤去するなどの適切な取扱いをして欲しい旨を申し入れたところ、同社員は、本件協議会として取り組むことは難しいから、コンピニ各社に対し、個別的に要請して欲しい旨を回答した。そこで、生安総務課の担当者は、直接コンビニ各社に対する要請を行うこととし、本件協議会の会長との上記話合いに同席していたローソンの担当者に対し、ローソンの店舗における暴力団関係書籍等について、適切な措置を講じるように口頭で要請した。同担当者はこれを了承したものの、生安総務課の担当者に対し、①各店舗のオーナーに趣旨を正確に伝えるため、要請内容を記載した文書及び②県警が有害と考えている雑誌等を例示した一覧表を交付してもらいたい、との要望を伝えた。
(弁論の全趣旨)

ウ ローソン担当者からの上記要望を受け、生安総務課と組対課で協議した結果、上記②の一覧表については生安総務課の担当者が作成することとなった。そこで、同担当者は、平成21年12月11日、コンビニにおける実地の調査とインターネットによるキーワード検索等の方法により抽出したコミック73品日と雑誌3品目を列挙した一覧表(甲1の2、以下「本件リスト」という。)を作成した。なお、本件リストに挙げられたコミック(本件コミックを含む。)は、すべて株式会社竹書房発行の実録ピカレスクシリーズに属するものであり、雑誌の発行元は、すべて株式会社メディアボーイであった。
 また、上記①の文書については、組対課がこれを作成することとなり、同月21日、下記のとおりの内容の「暴力団関係費籍、雑誌販売についての協力依頼(要請)」と讃する組対課長名義の文書(甲1の1、以下「本件要請文書」という。)が作成された。なお、本件要請文苦の宛名は「福岡県コンビニエンスストア等防犯協会各位」とされている。

「謹啓 寒冷の候、貴台におかれましては、益々ご健勝のこととお慶び申しあげます。

 平素から、警察行政の各般にわたりご理解とご協力を賜り厚く御礼申し上げます。

 さて、福岡県警察寮では、極めて厳しい県内の暴力団情勢を踏まえ、あらゆる法令を駆使した検挙活動を徹底するなど、暴力団犯罪の取締りを強化しておりますが、社会から暴力団を排除するためには、警察の取締りのみならず、社会が一体となって暴力団排除活動に取り組むことが不可欠であります。そこで、この度福岡県議会において、「福岡県暴力団排除条例」が制定され、平成22年4月1日から施行されることとなりました。

 警察では、本条例の制定を契機に、青少年の健全育成のための措置を一層推進し、青少年が暴力団に加入せず、暴力団犯罪の被害に遭わないための施策を更に徹底することとしております。しかし、暴力団専門誌や暴力団を主人公とした漫画等が氾濫しているなど、一部では暴力団を美化する風潮があることから、それらの影響を受け、誤った憧れを抱いたまま暴力団に加入する青少年が多数存在しているのが現実であります。このような憂慮すべき状況にあるということを認識すれば、青少年が多数来店するコンビニ店舗から暴力団関係書籍、雑誌等の撤去を検討すべきではないかと考えております。

 そこで、貴台におかれましても、暴力団関係書籍等が青少年に多大な影響を与えている現状をご埋解いただき、各店舗において適切な措置を講じていただきますよう、特段のご配慮をお願いいたします。

敬白」

(甲1の1及び2、弁論の全趣旨)

エ 上記本件要請文苦及び本件リストの作成と前後して、生安総務課の担当者は、平成21年12月初旬から同月下旬にかけて、暴力団関係書籍等のサンプルとなる雑誌を持参してローソン以外のコンビニ各社を訪れ、県下の店舗について、暴力団関係喜籍等を店頭から撤去するなどの適切な措置を講じるように申し入れた。そして、生安総務課の担当者は、上記訪問の際に持参する方法又は後日郵送若しくはファックスで送信する方法で、コンビニ各社に本件要請文啓を交付した(以下、県警のコンビニ各社に対する口頭及び本件要請文書による上記要請を「本件要請」という。)。
 また、生安総務課の担当者は、ローソン以外のコンビニ各社の各担当者からも、対象となる雑誌を例示して欲しい旨の要望があったため、上記ウのとおりの作成方法及び本件リストは例示である旨などを説明した上で、上記訪問の際に持参する又は後日ファックスで送信するなどの方法で、コンビニ各社に本件リストを交付した。
(弁論の全趣旨)

(3)コンビニ各社の対応
本件要請を受けたコンビニ各社のうち、従前から暴力団関係書籍等を取り扱っていなかったセブンイレブン及びam/pmを除く7社は、暴力団関係書籍等の販売を中止し、コンビニの店頭から撤去した。
(甲2の1から甲3の2まで、甲11、乙9、弁論の全趣旨)

 一応これが認定されている事実なのでそのまま引用しますね。 
 簡単に言いますと、福岡県警が「青少年に暴力団への誤った憧れを抱かせ、暴力団への加入を助長する」とする書籍・雑誌のリストをコンビニ各社に配布、コンビニ各社はこれらを店頭から撤去したためにリストに載ったある漫画の原作者が表現の自由を侵害されたばかりか出版社に仕事を断られたり表現の制約を受けたりして精神的苦痛をこうむったとして、福岡県を相手に訴訟を起こしたというものです。
 福岡県にもエロ方面にはきちんと図書の規制を行う青少年健全育成条例があります。しかしこの件では福岡県警が単独で常日頃から防犯関係で交流のあるコンビニ各社に対して暴力団関連書籍への措置を要請する文書と県警が暴力団関連書籍と考える書籍のリストを送付して、コンビニからそのリストに該当する書籍が撤去されたという事案でした。ですので、もしとある漫画が都条例で指定されて同じような状態になった場合、東京都を訴えたらどうなるのかというシミュレーションとはかなり違うものになるのですが、表現の自由をめぐる裁判として貴重な一例になると思うので読んでみた次第です。
 判決文については原本のほか、えふすくがOCRでテキスト化したものをGoogleドキュメントで公開しています。
 2年間に及ぶ裁判の結果は原告の一方的な敗訴、ということで原告側は控訴する予定とのことですが、この地裁判決を読んで実際に司法がどのような判断を下したのか確認していきたいと思います。

 なお、記述の都合上、原文の引用と要約が混じったような中身になりますので、細かいところはぜひ原文を読んで自分で分析してください。

争点① 憲法21条(表現の自由)違反 1.リスト配布後の撤去は「強制」なのか?

 原告の主張:
 福岡県警のリスト配布はコンビニ各社にとっては警察権力を背景にした強制である。

 被告の主張:
 リスト内の作品はコンビ二側の要請に応じて福岡県警が「暴力団関係書籍」と考えるものを例示しただけであり、実際に何が「暴力団関連書籍」であるかはコンビニ側に委ねている。
 福岡県警はリストの配布に関して販売中止を求めていないし、実際に撤去を行ったかの確認や、撤去を行っていない店舗に対する再度の要求や不利益になる行為を行っていない。

 地裁の判断:
 リストに添えられた要請文書では「撤去を検討されるべき」と考えた上で「適切な措置を講じること」を求めており、必ずしも「撤去」を求めていたものではない。
 福岡県警はリストの配布に関して販売中止を迫るような言葉を用いるなど警察権力を背景として暴力団関連書籍の撤去を強制した根拠になるような事実・証拠はない。
 この要請の後、このリストに入ってはいないものの暴力団を題材とするコミックが福岡県内のコンビニで販売されていることが確認されており、県警もこの要請にコンビニ各社が従って暴力団関連書籍が撤去されたかの調査を行ったり、暴力団関連書籍がおかれていたコンビニに対して再度の要請や不利益な扱いをしていない。
 また、福岡県では最近暴力団組員による一般市民への犯罪や発砲事件が多いことから福岡県暴力団排除条例が制定され、官民一体となって暴力団を排除する風潮があった。このような状況下ではこの要請がなくてもコンビニ各社は自主的に暴力団関連書籍の撤去を行っていたとしても不思議ではない。よって、この要請が撤去の強制である証拠とは言えない。

結論を言うと全面的に被告の主張を認めています。

リストに添えられていた要請文書というのがこれなんですが……


「謹啓 寒冷の候、貴台におかれましては、益々ご健勝のこととお慶び申しあげます。
 平素から、警察行政の各般にわたりご理解とご協力を賜り厚く御礼申し上げます。
 さて、福岡県警察寮では、極めて厳しい県内の暴力団情勢を踏まえ、あらゆる法令を駆使した検挙活動を徹底するなど、暴力団犯罪の取締りを強化しておりますが、社会から暴力団を排除するためには、警察の取締りのみならず、社会が一体となって暴力団排除活動に取り組むことが不可欠であります。そこで、この度福岡県議会において、「福岡県暴力団排除条例」が制定され、平成22年4月1日から施行されることとなりました。
 警察では、本条例の制定を契機に、青少年の健全育成のための措置を一層推進し、青少年が暴力団に加入せず、暴力団犯罪の被害に遭わないための施策を更に徹底することとしております。しかし、暴力団専門誌や暴力団を主人公とした漫画等が氾濫しているなど、一部では暴力団を美化する風潮があることから、それらの影響を受け、誤った憧れを抱いたまま暴力団に加入する青少年が多数存在しているのが現実であります。このような憂慮すべき状況にあるということを認識すれば、青少年が多数来店するコンビニ店舗から暴力団関係書籍、雑誌等の撤去を検討すべきではないかと考えております。
 そこで、貴台におかれましても、暴力団関係書籍等が青少年に多大な影響を与えている現状をご埋解いただき、各店舗において適切な措置を講じていただきますよう、特段のご配慮をお願いいたします。
敬白」

これとリストを渡されたら普通は撤去しときたくなるよなぁ……と人間心理上思うわけですが、それを強制と呼べるのかは確かに疑問。
そしてこの文書上にある「福岡県暴力団排除条例」に暴力団関連図書を撤去するような条項は当然ないわけですが、これを書かれると条例でそう決まっているふうにも(正しくはないけど)読めてしまう。
ところで「暴力団関連書籍を読んだら暴力団に入りたくなるのか?」という根本的な疑問が沸くと思うんですが、この文書では福岡県警の現場の警察官はそういう青少年を現実に多数見ているのだそうです。

争点① 憲法21条(表現の自由)違反 2.コンビニからの撤去は表現の自由の侵害なのか?

原告の主張:
 本件コミックを含むいわゆるコンビニコミックスは、コンビニで安価に販売されることを予定して出版されたものであり、通常の書店やインターネットで購入することはできないから、本件要請により、本件コミックは事実上市場への流通経路を失う。これらの事情からすると、本件要請は、規制の目的に比し、過重な規制であり、規制手段として許容される限度を逸脱したものといわざるを得ない。

被告の主張:
 コンビニ以外の一般の書籍販売店やインターネットにおいて販売することは全く制限されないことからすると、本件要請は、表現活動の事前抑制に該当するものではなく、憲法21条に違反するものとはいえない。

地裁の判断:
 本件要請は、その直接の相手方であるコンビニ各社に対してすら本件コミック等の撤去を強制するものではないのであるから、その直接の相手方ではなく、本件コミックの原作者にすぎない原告の執筆活動、その作品の公表及び販売等を規制するものということは到底できない。 

ここでは原告の撤去されたコミックの執筆者ではなく原作者という立場が原告が訴えるのに適格であるかどうかという問題になっています。で、その資格がないと言ってるわけで……
撤去は県警の強制ではなく、コンビニ各社の自主規制ということであれば、原告が訴えるべきはコンビニ各社であるということでいいのかな? それとも書籍の販売を妨げられたという意味で被告を訴えていいのはコンビニ各社であるという意味なのかな?

いずれにしても、この原告の適格がこの後の判断でも問題になってくるわけで……

争点① 憲法21条(表現の自由)違反 3.リストへの掲載は(原作者への)名誉毀損なのか?

原告の主張:
 県警のリストに載せられた結果、原作者として名誉を毀損された。

被告の主張:
 県警のリストに載っているのは書名だけであり、原作者である原告の名前はない。これは後にこの件が報道された際も同様である。
 リストは無作為なネット検索によって作成されたものであり、書籍や著者の客観的評価とは無関係であるから名誉毀損ではない。

地裁の判断:
 原告の名前やその作品名が直接リストに挙げられていない。
 一般人の普通の注意と読み方を基準としてその内容を解釈すればこの書籍が青少年の健全育成を害する暴力団関係書籍等に当たると県警が判断した、というものに過ぎず、この書籍と原告との関連性はわからないので原告の社会的評価を低下させるものとは言えない。
 そもそもこの文書はコンビニ各社に渡されたもので不特定多数の目に触れるためのものではないし、新聞報道などでも具体的な作品名や作者および原作者名は出ていない。
 ゆえにこの書籍の内容を問うまでもなく、この要請およびリストによって原告の名誉を毀損されたとは言えない。

問題のリストについてはこちらPDF
確かに書名しか載ってないわけで……

とはいえ全くの無関係とも言えないでしょうってことで……

 本件要請は、原告の表現活動を法的に制限する効果を伴うものとはいえないものの、本件要諦及び本件リストの交付を受けたコンビニ各社は、本件コミック等をコンビニの店頭から撤去するなどしており、また、そのことを知った出版社等が、原告の作品等を取り扱うことを自粛したりすることにより、原告の表現活動に何らかの支障を生ずることがあり得るといえる。
 そこで、憲法の保障する精神的自由の一つとしての表現の自由の重要性に鑑み、本件要諦並びに本件リストの作成及び配布が原告の人格的利益を侵害する違法なものかどうかを判断するに当たっては、披侵害利益の内容及び性格、本件要請並びに本件リストの作成及び配布の目的の正当性、手段の相当性等を吟味した上で、総合的に判断すべきである。

という判断をしています。ということで、吟味していただきましょう。

争点① 憲法21条(表現の自由)違反 4.表現の自由<<<<<<<<<公共の福祉

原告の主張:
 原告は、県警ともめていることを理由に、週刊誌や出版社から、その著作の出版や記事掲載を断られたり、表現の変更を求められたりした。また、出版社等が萎縮し、原告の原作をコミック化することが難しくなるなど、現在及び将来の表現活動の拡大の機会が奪われている。

被告の主張:
 
本件要請の目的は、福岡県における青少年の暴力団への加入実態等に鑑み、暴力団を賛美するような書籍等を青少年が購読することにより、青少年が暴力団に対して誤った憧れを抱かないようにし、ひいては青少年の暴力団への加入を防止することにあり、これは、公共の福祉に沿うものとして是認されるべきものである。
 本件要請後、出版社等が本件要請に関する誤った認識に基づいて原告に対する原稿の依頼、出版や記事掲載を見送るなどしたとしても、それは出版社等の判断であって、被告が責任を負うべきものではない。

地裁の判断:
 仮に、原告が主張するとおり、本件要請を知った出版社等が原告の作品の出版等を断るなどしたとしても、それは当該出版社等の判断によるものと捉えるべきであり、したがって、これらは、本件要請の直接の効果とはいえず、その事実上の影響という範囲に止まるものである。
 原告の利益は、原告の作品において、その思想等を表現するという意味で、主に個人的な価値に支えられる表現の自由から派生するものとして法律上保護される利益といい得るとしても、本件コミックの販売の点では経済的利益の側面もあり、かつ、その社会的価値の視点をも前提にすると、個人が言論活動を通じて自己の人格を発展させ、言論活動によって国民が政治的意思決定に関与するという、表現の自由の核心部分からは遠く、その価値とその表現の保護の必要性は、相対的には必ずしも高いとはいえない。
 他方、本件要請並びに本件リストの作成及び配布の目的は、青少年が、暴力団関係書籍等による影響を受け、誤った憧れを抱いて暴力団に加入することを防止するというものであって、最近の状況を前提にする限り、そのような重要な社会的利益の保護を目的とすること自体、極めて正当であり、かつ、その必要性が高いものということができる。そしてそれが違法である証拠はない。
 ゆえに、本件要請並びに本件リストの作成及び配布が、原告の人格的利益を侵害する違法なものであるということはできない。

比較して吟味したわりには「お前の書いてる本は公共の福祉の前ではほぼ無価値に等しいから黙って規制されてろ」に近い判断でして……これなら判断してくれないほうがよかったと思えるような中身です。
この部分だけでも作者なら控訴したくもなるでしょう。
おそらくこの手の争いで最大の壁となる「公共の福祉」 勉強しておく必要がありそうです。
それにしても風当たりが一方的なんですよね。もしかして土地柄として暴力団憎しなところがあるのかなぁなんて思ってみたり。そうなると高裁も福岡だよなぁ……。

争点② 憲法31条(適正手続の保障)違反

原告の主張:
 この要請は警察がコンビニ各社に暴力団関連書籍の撤去を強制した行政処分もしくは行政指導であり、法律や条例の規定もないのに行使してはならないはずの行為である。
 青少年にとって有害な図書であるならば福岡県には青少年健全育成条例があり、そちらの審査を経てから有害図書として出されるべきであり、この要請はその手続きを踏んでいない。

被告の主張:
 この要請はコンビニ各社に対して何らかの義務を課したり、直接具体的な効果を及ぼすものではないから行政処分ではない。
 また、措置の内容も具体的な書籍等を示したわけではない(リストはあくまで例示であり、撤去する本を決めるのはコンビニ側)し、コンビニ各社に対して講じるべき具体的な措置の特定もしてないので行政指導にも当たらない。
 あくまでコンビニの自主的な判断に基づく措置を要請しただけであるこの行為は、指定された図書を速やかに区分陳列しなければならない青少年健全育成条例とは全く異なるもので手続きは不要である。

地裁の判断:
 
この要請は原告にではなく、コンビニ各社に対してなされた行為であり、しかも対応を要請するものに過ぎない以上、原告にこれを訴える理由はない。
 「犯罪の予防」は法で定められた警察の責務であり「暴力団関連図書を通じて暴力団に憧れを抱いて加入する青少年を未然に防ぐ」今回の行動は強制力の伴わない任意手段による限り一般的に許容されるものである。
 この要請はコンビニ各社に任意の対応を求めるものであり、罰金または科料による制裁の下に青少年に対する販売を禁止される青少年健全育成条例の有害図書の指定とは性質が異なる。

もうひとつの争点である「要請自体の根拠になる法律が存在しないこと」についてですが「暴力団関連書籍を読む青少年が減るのは暴力団に入る青少年が減るから防犯になるんだよ。それが強制じゃないんだから警察として当然の責務なんだよ」ということで一蹴されました。
でもこの手口でいいなら、警視庁(東京都)が「最近性犯罪が増えてるから性犯罪を描いた本を撤去してほしいんですよー」ってコンビニにお願いしても警察の責務ってことになっちゃいますが、まぁそれも屁理屈ですね。


0 件のコメント:

アクセス解析